圓明院
【よもやま】顔面問答
2020年10月24日

「顔面問答」は中国の有名な学者愈曲園の書いた随筆です。顔の中で口が一番下であることに不満を抱き、鼻、眼、眉毛に問答をするというものです。

鼻に向かい
「おい、君は飲み食いのような重要な働きをせぬにもかかわらず、僕の頭の上に胡座をかき傲然と構えていてあまりに酷いじゃないか。少しは遠慮して僕の横へでも座って謹慎していたらどうだ。」

鼻は
「それはもっとものようだが、僕は君よりもっと重要な呼吸という任務に服しておる。君も多少はしておろうが、それは君の本務じゃない。大きな口を開いて呼吸をしていたら、喉を痛めて病にかかるし、そうやって市中を歩いてごらんよ、他人が馬鹿にするよ。それに、食事は二、三日しなくとも死ぬようなことはないが、呼吸はそうはいかぬ。しかも、食事と違って、呼吸には休みというものがない。実に不眠不休の大活動である。だからこそ、顔の中で最高の地位を占めているのさ。」

鼻と口に対して
「君らは知るまいけれど、およそこの世の中には種々の危険物があって、一つ間違えれば、人の生命を奪おうと待ちかまえておる。それを僕が高いところから監視しておるからこそ避けられるというものである。万一僕がその任務を怠ったら、たちまち一大災難にかかって横死しなければならんことになる。もし、僕が口の下にでも降りて顎の下へでも移ってみたまえ、大切な任務が果たせなくなってしまうよ。」

眉毛は
「いかにも、君たちの労苦には大いに感謝している。ただ、僕自身は何をしておるかということになると、お恥ずかしいことだが、一向に判らん。君らは自己の職務について他に対して誇るべきものをもっておられるが僕にはそれがない。ただ、こうせいといわれるままに、古往今来こうしているばかりである」

口、眼、鼻はお互いに自分の存在を主張し合うのですが、眉毛は古来よりここにいるわけだがなにをしているのかと問われても自分でも答えられないが、先祖伝来一生懸命自分の場所を守っているというのです。

作者は最後に
「自分は今日まで口と鼻と眼の心がけで暮らしてきたが間違っていた。これからは是非眉毛の心がけで、世を渡りたい」と語っています。

あまり面白くもない話ですが、眉毛の姿勢は、我を張り人と争うこともなく、無我に徹し、因縁に随順して生きているさまをいっています。
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