心にまかせて心を用うるな
2025年11月08日

「心にまかせて心を用うるな」とは、弘法大師の教えの中でも、
とくに“心の扱い方”を説いた深い言葉です。
人は、喜びや怒り、欲望や不安といった感情に支配されると、
正しい判断を失い、迷いや苦しみを生み出します。
この言葉は、そうした「心の波」に流されず、
心を静かに観察し、導くことの大切さを教えています。
「心にまかせる」とは、感情や欲に任せて動くこと。
しかし、それは心に振り回されている状態です。
「心を用うるな」とは、心を抑えるのではなく、
心の本質を見つめ、心そのものに惑わされないこと。
つまり、心を客体として見つめる「観心」の実践にほかなりません。
たとえば、怒りを感じたとき、
その怒りに巻き込まれて言葉を発すれば、人を傷つけ、自らも苦しむ。
けれど、その怒りを一歩離れて見つめれば、
「なぜ自分は怒っているのか」と、心の動きを知ることができる。
その瞬間、怒りは消え、静寂が生まれるのです。
この教えは、現代のストレス社会においても大切な道しるべです。
心を制することができれば、外の出来事に左右されず、
どんな状況でも穏やかに生きることができる。
「心にまかせて心を用うるな」とは、
心を敵とせず、師として学ぶ姿勢。
心を見つめる智慧こそ、真の安らぎへの第一歩なのです。